遺言書の作成では「遺留分に注意を払いましょう。」とありますが、実務上はどうしたらよいのか以下にご説明します。

遺言書でのトラブル

相続人のトラブルで多いのは遺言書の無効と遺留分侵害の二つです。
遺言書の無効とは、被相続人の真正な遺言書ではないという主張です。公正証書遺言では本人が公証人の前で意思を表明し、証人も確認しますのでこのようなトラブルが起こることは少ないですが、自筆証書遺言の場合には、遺言書の内容に不満な相続人から、「被相続人の自筆ではない」とか、「無理やり書かされたものだ」とか、「この時にはもう認知症になっていて書けないはずだ」とか主張してくることがあります。

被相続人の自筆に間違いないと即答することは親族でも難しいかもしれませんが、残された手紙とか書類とかで確認できることが多いはずです。また、無理やり書かされたとか、認知症とか言われても、読める字できちんと書かれていれば本人の意思だと大半の相続人が考えれば、この指摘も普通は受け入れられないでしょう。それでも納得できない相続人は、家庭裁判所に遺言無効確認訴訟を起こすことになります。

遺留分侵害とは?

では、遺留分侵害についてはどうでしょうか。
遺留分とは民法で定められている最低限相続できる権利で、これは遺言でも侵害できません。

被相続人の兄弟姉妹以外は遺留分があります。遺留分割合は、配偶者のみで1/2、子のみで1/2、親のみで1/3、配偶者と子で1/4ずつ、配偶者と直系尊属で1/3、1/6です。これを親や子の人数で割った値が一人分の遺留分割合です。配偶者と子二人であれば1/4、1/8、1/8となります。

遺留分を侵害しないようにするためには、遺言書に「〇〇に△△の財産を相続させる。但し、遺留分額を下回る場合には遺留分額を相続させる。」という書き方になります。

法定相続割合で資産がうまく分割できれば良いのですが、土地の割合が多く且つ被相続人が土地の共有名義は避けたいという考えの場合には、残りの株式や預金の相続に際し、遺留分の問題が出てくる場合があります。

遺留分を計算する場合の土地・建物の評価方法

相続税の計算では、戸建ての固定資産の評価について、土地は路線価ベース、建物は固定資産評価額を使います。しかし、遺留分の算定は時価となっていますので、建物は固定資産評価額を使うとしても、土地は悩ましいところです。

遺留分侵害事由の第一は土地の評価が低すぎるから、ということです。「土地の評価がもっと高いはずだから、自分の相続分は遺留分額を満たしていない。」という主張です。ではどうやって土地の評価を出したらよいのでしょうか。

費用をかけて不動産鑑定士に鑑定評価額を出してもらうこともできますが、そこまで正式に行わないとすると以下の二つのケースが考えられます。

一つには、路線価は時価の約8割、土地の固定資産評価額は時価の約7割と言われているので、これで割り戻して時価を推定する方法です。
二つには、金融機関の不動産担保評価でも参考値として必ず検証する売買事例比較方式で、物件の近隣不動産会社に最近の不動産売買事例を教えてもらう、あるいは業者のチラシに出ている近隣物件の売値坪単価等を参考にして計算する方法です。

これらを比較し、あるいは平均値を使用して評価額を算定することになります。大事なのは、遺留分侵害だと申し出ている相続人に納得してもらうことです。不動産の価値は実際に売買しない限り分かりませんので、評価方法も含めて説明をし、理解を求めましょう。

遺言執行に際しての注意点

遺言書に「遺留分額は相続させる」と書かれている場合はもちろん、書かれていなくても、後々もめることがないように財産総額を算出し、遺留分額についても確認しておくのが良いと思います。

遺言書がなく、相続人が遺産分割協議をする場合には、財産総額の時価を算出してから、分割協議を行います。遺言書には、不動産や有価証券等価格変動財産もありますので、財産総額は書かれていないことがほとんどです。

遺言書の作成段階からのご相談には、財産総額の時価算出並びに遺留分のチェックを含め適切なアドバイスをさせて頂きます。