お父様の遺言書に、事前に知らされることなく、あなたの名前が遺言執行者としてあったらどうしますか。相続人の代表として任されたのですから、責任をもって遺言書通りに遺産手続きを進めていただきたいと思います。

そうは言っても…、しかし安心してください。遺言執行者には復任権がありますので、日中は仕事があり遺言執行の時間が取れない場合、あるいは執行には少し不安だといった場合には行政書士等の専門家を復受任者に選定すれば良いことになります。(復代理人の委任状を作成します)

遺言執行者としての行為は全相続人から委任された行為ですので、預金の名義変更や解約払戻による移し替え等全相続人の委任状が要求される手続きも、遺言執行者単独でできることになり手続きが進めやすくなります。
以下に遺言執行者の職務内容をご説明します。

遺言執行者のしなければならないこと

遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務をもち、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為は禁止されています。(民法1012条、1013条)

・遺言執行者になることを承諾したときには、直ちに相続人にそのことを通知すること(民法1007条)

・遅滞なく財産目録を作成して相続人に交付すること(民法1011条)

・善良な管理者の注意義務をもって相続財産を管理すること民法1012条)

・遺言を執行すること(預貯金の払戻し・解約、不動産の相続登記ほか)(民法1014条)
~遺言書で特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」とあった場合には、その相続人は単独で相続登記ができますが、遺言執行者も相続登記はできますので、実務的には遺言執行者がすべてをコントロールすることが良いと考えます。

・相続人からの請求がある時には執行状況について報告をすること、また終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告すること。(民法1012条)

その他委任の条文を準用した「受取物の引渡し等」「金銭の消費についての責任」「費用等の償還請求」の取り決めがあります。

遺言執行者しかできないこと

・遺言による認知の市町村への届け出(戸籍法64条)
・遺言による推定相続人の廃除の家庭裁判所への請求(民法893条)
・遺贈の履行(民法1012条)

遺言執行に関する費用の負担

遺言執行に関する費用は相続財産の負担となります。
ただし、これによって遺留分を減ずることができない。(民法1021条)とあり、遺留分以外の相続財産から支払うことになります。
費用には、相続登記費用、預貯金払戻し等の金融機関手数料、遺言執行者の報酬等が含まれます。

遺言執行者の報酬

・遺言書に報酬が定められていればその額
・遺言書に定めがなければ家庭裁判所に「遺言執行者に対する報酬付与審判申立書」をして決定した報酬額
・相続人との協議により定めた額

その他注意すべきこと

・遺言執行者の欠格事由
~未成年者及び破産者は遺言執行者となることはできません。

・遺言執行者に対する就職の催告
~遺言執行者に指名されて承諾を決めかねていると、相続人その他の利害関係者から、相当の期間を定めて、期間内に承諾するかを確答すべく旨の催告が来てしまい、確答しないときは承諾するものとみなされてしまいます。

・遺言執行者の解任
~遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求できます。

・遺言執行者の辞任
~正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞任することができます。

最後に

遺言の執行については、例えば配偶者とお子さんたちだけであれば、通常ご家族で協力していけば十分可能だと思います。相続人が多く、あるいは住まいが離れていて連絡が大変であるとき、資料作成の時間がないとき、第三者が行った方がスムーズにいきそうなとき等については、行政書士等の専門家に遺言執行者をお任せください。

また、遺言書を書く時には必ず遺言執行者を決めるように勧めてください。初めから専門家を指名することも可能ですが、まだ当分先の話であれば、先ずはご家族で構いません。遺言執行者はその時になってから専門家に頼むことも可能です。