各業法により個人事業主の事業承継はどのような取り決めになっているかを主要な認可業種、登録業種、届出業種ごとに法令をベースにまとめてみました。事業譲渡承継条項があれば生前に親から子供へ簡易な方法で事業譲渡を行うことができますが、相続承継条項しかなければ生前承継は改めて許可・登録等を取得する必要があります。

個人事業主の事業承継につきましては、中小企業経営強化法による事業承継規定もありますが、「後継者不在により事業の継続が困難」となっている企業から事業を引き継ぐ場合で、主務大臣による経営力向上計画の認定が必要になり、また許認可承継の特例は業種が限定されています(旅館業、建設業、火薬類製造業・火薬類販売業、一般旅客自動車運送事業、一般貨物自動車運送事業、一般ガス導管事業)。生前に親族や後継者に事業承継が簡易な手続きで可能となるような法改正を各業種から要望が出されているところです。

取りまとめは次の5つのカテゴリーに分類しています。主な業者を掲載していますのでご参考にしてください。なお、関係法令欄で(相続のみ)の記載のある条文は相続時の手続きのみを規定し、記載のない条文は事業譲渡承継と相続承継が併せて規定されているものです。

  1. 相続人は届出により営業許可の地位承継が可能な業者
  2. 相続人の地位継承には認可・承認が必要な業者
  3. 相続人は地位承継はできず改めて許可取得が必要な業者
  4. 登録業者(地位承継条項ありなし)
  5. 届出業者(地位承継条項あり、なし)

1.相続人は届出により営業許可の地位承継が可能な業者

業者名 関係法令 相続人の届出方法   

食品関係営業者       (飲食店・喫茶店、食品製造業、食品処理業、食品販売業等食品衛生法記載の34業種)

53条 (相続のみ)   遅滞なく*都道府県知事に届出
(*保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長。)
食鳥処理業者 7条  (相続のみ)

遅滞なく*都道府県知事に届出
(*保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長。)

浴場営業者 2条の2 (相続のみ) 遅滞なく*都道府県知事に届出
(*保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長。)
興行場営業者 2条の2 (相続のみ) 遅滞なく*都道府県知事に届出
(*保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長。)

高圧ガス製造者
 第一種製造者
 第二種製造者


10条 (相続のみ)
10条の2

遅滞なく都道府県知事に届出
一般廃棄物処理施設設置者 9条の7 (相続のみ) 30日以内に都道府県知事に届出
産業廃棄物処理施設設置者 15条の4 (相続のみ) 30日以内に都道府県知事に届出
酒類製造者、酒母・もろみ製造者、酒類販売業者 19条 (相続のみ) 遅滞なく所轄税務署長に申告
ガス導管事業者 43条 遅滞なく経済産業大臣に届出
航空機製造事業者 2条の7 遅滞なく経済産業大臣に届出
たばこ小売販売業者 27条 (相続のみ) 遅滞なく財務大臣に届出
特定貨物運送事業者 35条 30日以内に国土交通大臣に届出
第一種貨物利用運送事業者 14条 30日以内に国土交通大臣に届出
特定旅客自動車運送事業者 43条 30日以内に国土交通大臣に届出
特定旅客定期航路事業者 19条の3 30日以内に国土交通大臣に届出
旅客不定期航路事業者 23条 30日以内に国土交通大臣に届出

2.相続人の地位承継には認可・承認が必要な業者

業者名 関係法令 相続人の申請方法
一般貨物運送事業者 31条(相続のみ) 60日以内に国土交通大臣の認可
第二種貨物利用運送事業者 30条(相続のみ) 60日以内に国土交通大臣の認可
一般旅客自動車運送事業者 37条(相続のみ) 60日以内に国土交通大臣の認可
港湾運送事業者 18条(相続のみ) 60日以内に国土交通大臣の認可
鉄道(運送)事業者 27条(相続のみ) 60日以内に国土交通大臣の認可
一般旅客定期航路事業者 18条(相続のみ) 60日以内に国土交通大臣の認可
航空運送事業者 116条(相続のみ) 60日以内に国土交通大臣の認可
旅館業営業者 3条の3(相続のみ) 60日以内に都道府県知事の承認
温泉採取事業者 14条の4(相続のみ) 60日以内に都道府県知事の承認
温泉利用事業者 17条(相続のみ) 60日以内に都道府県知事の承認
風俗営業者 7条(相続のみ) 60日以内に管轄公安委員会の承認

3.相続人は地位承継ができず改めて許可取得が必要な業者

業者名 関係法令 相続人の届出方法
建設業者 12条 30日以内に許可を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に廃業等届出
宅地建物取引業者 11条 30日以内に免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に廃業等届出
古物商・古物市場主 8条 、規則7条 10日以内に管轄公安委員会に許可証を返納
質屋 9条 10日以内に管轄公安委員会に許可証を返納
警備業者 12条 10日以内に管轄公安委員会に認定証を返納
病院・診療所・助産所(医師・歯科医師・助産師でない者) 9条 10日以内に都道府県知事に死亡届
家畜商 施行令7条 都道府県知事に免許証を返納
浄化槽清掃業者 35条 30日以内に市町村長に廃業等の届出
労働者派遣事業者 規則10条 10日以内に厚生労働大臣に廃業等の届出
有料職業紹介事業者 規則21条 10日以内に厚生労働大臣に許可証を返納
医薬品・医薬部外品・化粧品製造販売業者、製造業者 (条項無し)
医療機器製造販売業者、製造業者 体外診断用医薬品製造販売業者、製造業者 (条項無し)
再生医療等製品製造販売業者、製造業者 (条項無し)
薬局開設者 (条項無し)
医療品販売業者 (条項無し)
医療機器販売業者、貸与業者 (条項無し)
高度管理医療機器等販売業者、貸与業者 (条項無し)
医療機器修理業者 (条項無し)
再生医療等製品販売業者 (条項無し)
一般廃棄物収集運搬業者 (条項無し)
一般廃棄物処分業者 (条項無し)
産業廃棄物収集運搬業者 (条項無し)
産業廃棄物処分業者 (条項無し)
特別管理産業廃棄物収集運搬業者 (条項無し)
特別管理産業廃棄物処分業者 (条項無し)
火薬類製造業者 (条項無し)
火薬類販売業者 (条項無し)
墓地・納骨堂・火葬場経営者 (条項無し)

4.登録業者

地位承継条項あり)  

業者名 関係法令 相続人の届出方法
採石業者 32条の6 遅滞なく都道府県知事に届出
砂利採取業者 8条 遅滞なく都道府県知事に届出
液化石油ガス販売事業者 10条 遅滞なく経済産業大臣又は都道府県知事に届出
電気工事業者 9条  30日以内に経済産業大臣又は都道府県知事に届出
ガス小売事業者 8条 遅滞なく経済産業大臣に届出
揮発油販売業者 7条  遅滞なく経済産業大臣に届出
揮発油特定加工業者 12条の8 遅滞なく経済産業大臣に届出
軽油特定加工業者 12条の 15 遅滞なく経済産業大臣に届出
倉庫業者 17条、 19条 (相続のみ) 30日以内に国土交通大臣に届出
内航海運業者(百トン以上、30メートル以上) 10条 30日以内に国土交通大臣に届出
農薬製造者・輸入者 5条 遅滞なく農林水産大臣に届出
肥料生産業者・輸入業者・販売業者 13条  2週間以内に農林水産大臣又は都道府県知事に届出、登録証書替申請
旅行業者、旅行業者代理業者 15条 30日以内に観光庁長官に死亡届又は60日以内に登録申請
自動車分解整備事業者 (認証) 82条 30日以内に地方運輸局長に届出

(地位承継条項なし)

業者名 関係法令 相続人の届出方法
測量業者 55条の9 30日以内に国土交通大臣に廃業等の届出
浄化槽工事業者 26条 30日以内に都道府県知事に廃業等の届出
旅行サービス手配業者 35条 30日以内に観光庁長官に死亡届出
貸金業者 10条 30日以内に登録をした内閣総理大臣又は都道府県知事に廃業等の届出
毒物劇物営業者 (条項無し)
解体工事業者 (条項無し)
医療機器製造業 (条項無し)
体外診断用医薬品製造業 (条項無し)
自家用有償旅客運送事業 (条項無し)
指定高度管理医療機器等製造販売業(認証) (条項無し)

5.届出業者

(地位承継条項あり)  

業者名 関係法令 相続人の届出方法
理容所開設者 11条の3(相続のみ)

遅滞なく都道府県知事に届出
(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長。)

美容所開設者 12条の2 (相続のみ) 遅滞なく都道府県知事に届出
(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長。)
クリーニング所営業者 5条の3 (相続のみ) 遅滞なく都道府県知事に届出
(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長。)
高圧ガス販売業者 20条の4の2 遅滞なく都道府県知事に届出
ばい煙発生施設 12条 30日以内に都道府県知事に届出
騒音発生施設 11条 30日以内に市町村長に届出
特定ガス導管事業者 73条  遅滞なく経済産業大臣に届出
ガス製造事業者 87条 遅滞なく経済産業大臣に届出
ガス用品製造販売事業者 141条 遅滞なく経済産業大臣に届出
液化石油ガス器具等製造販売事業者 42条  遅滞なく経済産業大臣に届出
内航海運業者(百トン未満、30メートル未満) 10条 30日以内に国土交通大臣に届出

(地位承継条項なし)

業者名 関係法令 相続人の届出方法
探偵業者 規則4条 遅滞なく探偵業届出証明書を管轄公安委員会に返納
古物競りあっせん業者 (条項無し)
管理医療機器販売業者、貸与業者 (条項無し)
対外旅客定期航路事業者 (条項無し)
貨物定期航路事業者 (条項無し)
不定期航路事業者 (条項無し)
船舶貸渡業者・海運仲立業者・海運代理店業者 (条項無し)

最後に

ご覧いただきました通り、許可業者につきましては事業譲渡による承継が届出による簡易な方法でできる業者は限られています。また相続承継条項のある業者も少なく、事業者の死亡という不測の事態に事業を途切れさせることなく続けさせるため、特殊事情により認めているという立場が反映されています。

事業経営の安定性のためには、相続時まで引き延ばすことをせず、生前から後継者を育て事業譲渡を計画的に進めていくことが肝要であると考えます。しっかりとした事業基盤を踏まえ、後継者と共に新たな事業計画を策定し許可取得を進めることも、企業の成長の一つのステップと考えることは出来ないでしょうか。

営業許可申請等につきましては、いつでも行政書士がお手伝いさせていただきますのでお気軽にご相談ください。