新しく営業を始められるときに、本業の営業許可取得の他に、消防法および火災予防条例(地方自治体)等に注意しておかないと思わぬ罰則が掛かってくる場合があります。どのような営業が防火予防の対象となるのでしょうか。以下にポイントを取りまとめましたのでご参考にしてください。なお、消防法の対象となる危険物およびその取扱いに関しては別の機会にご説明させていただきます。

1.防火管理者の配置

営業許可の取得に際しては、責任をもって管理を徹底させるために、一定の資格がある、あるいは指定講習を受けた〇〇管理者や〇〇責任者等を配置するように定められています。

政令で定められた防火対象物(後述)につきましては、防火管理者を配置し、所轄消防長または消防署長に届出の上、次の業務を行わせなければなりません。

  • 消防計画の作成
  • 消火、通報および避難訓練の実施
  • 消防設備の整備およひ点検
  • 火気の使用、取扱いに関する監督
  • 避難、防火上必要な設備の維持管理
  • 収容人員の管理
  • その他防火管理上必要な業務

また、高層建築物(高さ31m超)や地下街等で権原を有する者が分かれている場合は、統括防火管理者を定め、各区域の防火管理者を束ねて協力体制を構築する必要があります。
さらに、定められた規模の防火対象物には、防火管理業務の補助として防火管理技術者を置かなければなりません。また、多数の者が出入りするもので、かつ大規模の建物については、自衛消防組織の設置も義務付けられています。

2.防火対象物として定められているものとは

防火管理者を配置すべき「学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店(大規模な小売店)、複合用途防火対象物、その他多数の者が出入りし、勤務し、居住する防火対象物」とは、具体的にはどのような業態で、どのくらいの規模の物が対象となるのでしょうか。以下の表にお示ししますとおり、消防法施行令に20種類が定められています。

飲食店や販売店であれば収容人員30人以上の規模の場合に対象となり、従業員を何人か使っている広さのイメージとなります。
収容人員の算出方法は消防法施行規則に用途別に定められており、
例えば飲食店については、次の①+➁+③+④で算出します。

①従業員数
➁客席の固定式いす席の数
③客席長椅子は正面幅を0.5mで除して得た数(1未満切捨て)
④その他部分は床面積を3㎡で除して得た数(1未満切捨て)

【防火対象物】

  用 途 収容人員
 1 劇場、映画館、演芸場・観覧場 30人以上
公会堂・集会場 30人以上
 2 キャバレー、カフェー、ナイトクラブ等 30人以上
遊技場、ダンスホール 30人以上
性風俗店 30人以上
カラオケボックス等 30人以上
 3 待合、料理店等 30人以上
飲食店 30人以上
 4 百貨店、マーケット、物品販売業店舗、展示場 30人以上
 5 旅館、ホテル、宿泊所等 30人以上
寄宿舎、下宿、共同住宅 50人以上
 6 病院、診療所、助産所 30人以上
避難が困難な要介護者を入居させる施設、救護施設、乳児院、障害児入所施設、障害者支援施設 10人以上
老人デイサービスセンター等、更生施設、助産施設、保育所、児童発達支援センター、身体障害者福祉センター等 30人以上
幼稚園、特別支援学校 30人以上
 7 学校 50人以上
 8 図書館、博物館、美術館等 50人以上
 9 公衆浴場(蒸気浴場、熱気浴場等) 30人以上
公衆浴場(上記以外) 50人以上
10 車両の停車場、船舶・飛行機の発着場 50人以上
11 神社、寺院、教会等 50人以上
12 工場、作業場 50人以上
映画スタジオ、テレビスタジオ 50人以上
13 自動車車庫、駐車場 50人以上
飛行機・回転翼航空機の格納庫 50人以上
14 倉庫 50人以上
15 上記に該当しない事業場 50人以上
16 複合用途防火対象物(1~4、5イ、6、9イの2以上の用途) 30人以上
複合用途防火対象物(6ロが存するものに限る) 10人以上
複合用途防火対象物(上記以外) 50人以上
16の2 地下街 30人以上
16の3 建築物の地階で連続して地下道に面して設けられたものと地下道とを合わせたもの
17 重要文化財、重要美術品等として認定された建物 50人以上
18 延長50m以上のアーケード
19 市町村長の指定する山林
20 総務省令で定める舟車

3.設置・維持しなければならない消防用設備とは

防火対象物の管理権原を有する者は、定められた消防用設備、消防用水、および消火活動上必要な設備を、定められた技術上の基準に従って設置し、維持しなければなりません。

消防用設備は、消火設備、警報設備、避難設備の3つに分けられています。
なお、設置方法については消防法施行規則や火災予防条例に従って配置する必要があります。

(1)消火器具

消火器および簡易消火用具(水バケツ、水槽、乾燥砂等) …[消火器具]
屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、 その他消火設備(水噴霧、泡、不活性ガス等)
屋外消火栓設備、動力消防ポンプ設備

一般的な防火対象物でご説明いたします。消火器具は各防火対象物に設置し、火の使用の有無や初期消火の重要性に応じて基準が作られています。また屋内消火栓設備につきましては、貯水槽、消火栓箱、ホース、配管、ポンプ、非常電源等、建物の設計・建築時より計画的に進めていく必要があります。

【防火対象物1~4、5イ、9イについて】

  用 途 消火器具 屋内消火栓
劇場、映画館、演芸場・観覧場            全て ・延べ面積500㎡以上
・上記以外:地階、無窓階、4階以上の階にあっては床面積100㎡以上㊟1
・[条例]地上5階以上のもの㊟2  
公会堂・集会場 ・延べ面積150㎡以上
・上記以外:地階、無窓階、3階以上の階で床面積50㎡以上のもの
キャバレー、カフェー、ナイトクラブ等              全て      ・延べ面積700㎡以上
・上記以外:地階、無窓階、4階以上の階にあっては床面積150㎡以上㊟1
・[条例]地上5階以上のもの㊟2    
遊技場、ダンスホール
性風俗店
カラオケボックス等
待合、料理店等         ・火を使用する:全て
・火を使わない:
延べ面積150㎡以上
上記以外:地階、無窓階、3階以上の階で床面積50㎡以上のもの
飲食店
百貨店、マーケット、物品販売業店舗、展示場   ・延べ面積150㎡以上
・上記以外:地階、無窓階、3階以上の階で床面積50㎡以上のもの
旅館、ホテル、宿泊所等
公衆浴場(蒸気浴場、熱気浴場等)

㊟1 屋内消火栓設備の延べ面積または床面積の数値は、耐火構造で内装仕上げが難燃材料の場合は3倍、耐火構造のみの場合および準耐火構造で内装仕上げが難燃材料の場合は2倍とする。
㊟2 耐火構造・不燃材料仕上げで5階以上の床面積合計150㎡以下または150㎡以内毎に防火区画されているものを除く(耐火構造・準不燃材料仕上げで300㎡以下または300㎡以内の防火区画)

(2)警報設備

自動火災報知機設備、ガス漏れ火災警報設備、漏電火災警報設備、消防機関へ通報する火災報知設備
非常警報器具(警鐘、携帯用拡声器、手動式サイレン等)
非常警報設備(非常ベル、自動式サイレン、放送設備等)

自動火災報知機設備につきましては内装工事の時に設置基準に従って配置します。
規模と避難のしやすさによって基準が定められています。避難階とは直接地上に出られる出口で通常1階ですが、斜面にある建物では2階となったり、2つの階が避難階となる場合もあります。

【防火対象物1~4、5イ、9イについて】

  用 途 自動火災報知機
劇場、映画館、演芸場・観覧場  ・延べ面積300㎡以上のもの
・上記以外:避難階以外であって避難階または地上に直通する階段が2以上(外階段の場合は1以上)設けられていないもの
・地階、無窓階、3階以上の階にあっては床面積300㎡以上のもの
公会堂・集会場  
キャバレー、カフェー、ナイトクラブ等 ・地階、無窓階で床面積100㎡以上のもの
・3階以上の階にあっては床面積300㎡以上のもの
遊技場、ダンスホール
性風俗店
カラオケボックス等 全て
待合、料理店等  ・延べ面積300㎡以上のもの
・上記以外:避難階以外であって避難階又は地上に直通する階段が2以上(外階段の場合は1以上)設けられていないもの
・地階、無窓階で床面積100㎡以上のもの
・3階以上の階にあっては床面積300㎡以上のもの
飲食店    
百貨店、マーケット、物品販売業店舗、展示場 ・地階、無窓階、3階以上の階にあっては床面積300㎡以上のもの
旅館、ホテル、宿泊所等 全て
公衆浴場(蒸気浴場、熱気浴場等) ・延べ面積200㎡以上のもの
・上記以外:避難階以外であって避難階または地上に直通する階段が2以上設けられていないもの
・地階、無窓階、3階以上の階にあっては床面積300㎡以上のもの

㊟表に記載するほか以下のものが対象となります。

・道路の用に供される部分で、床面積が、屋上部分にあっては600㎡以上、
それ以外の部分にあっては400㎡以上のもの
・地階または2階以上の階のうち、駐車の用に供する部分の存する階であって、
当該部分の床面積が200㎡以上のもの
・11階以上の階
・通信機器室で床面積が500㎡以上のもの

(3)避難設備

すべり台、避難はしご、救助袋、緩降機、避難橋等…[避難器具]
誘導灯(避難口誘導灯、通路誘導灯、客席誘導灯)、誘導標識

避難器具は避難階及び11階以上の階を除いて設置するものです。

【防火対象物1~4、5イ、9イについて】

  用 途 避難器具 誘導灯 誘導標識
劇場、映画館、演芸場・観覧場     

・2階以上の階または地階で、収容人員が50人以上のもの
・3階以上の階のうち、当該階から避難階または地上に直通する階段が2以上設けられていない階で、収容人員が10人以上のもの(2階に2項または3項があるについては2階)
・[条例]6階以上の階で、収容人員が30人以上のもの
客席誘導灯                             全て
避難口誘導灯、通路誘導灯:   地階、無窓階、11階以上の部分    
公会堂・集会場              
キャバレー、カフェー、ナイトクラブ等
遊技場、ダンスホール
性風俗店
カラオケボックス等
待合、料理店等
飲食店
百貨店、マーケット、物品販売業店舗、展示場
公衆浴場(蒸気浴場、熱気浴場等)
旅館、ホテル、宿泊所等 ・2階以上の階または地階で、収容人員が30人以上のもの(下階に定められた防火対象物がある場合は10人以上)
・3階以上の階のうち、当該階から避難階または地上に直通する階段が2以上設けられていない階で、収容人員が10人以上のもの(2階に2項または3項があるについては2階)
・[条例]6階以上の階で、収容人員が30人以上のもの

(4)消防用水

 防火水槽、貯水池その他の用水

(5)消火活動上必要な設備

 排煙設備、連結散水設備、連結送水管、非常コンセント設備、無線通信補助設備

4.罰則規定

管轄消防署長への届出違反と命令違反について、主な罰則は次のとおりです。
消防長または消防署長は、必要に応じて、消防職員に立入検査等をさせることができます。
また消防法令に重大な違反のある防火対象物につきましては、法令違反の内容を利用者等へ公表する制度があります。これにより、利用者等の防火安全に対する認識を高めて火災被害の軽減を図るとともに、防火対象物の関係者による防火管理業務の適正化および消防用設備等の適正な設置促進に役立つことになります。

(1)届出違反

罰 則 違反内容
罰金30万円以下(消防法)
  • 防火管理者の届出
  • 消防用設備等の設置届出と検査  
罰金10万円以下(火災予防条例)  
  • 防火対象物の使用開始の届出(使用を開始する7日前までに)
  • 火気使用設備等の設置の届出(工事に着手する7日前までに)
  • 消防用設備等又は特殊消防用設備等の設置の届出(工事完了から4日以内に)

(2)命令違反(消防法)

罰 則 違反内容
3年以下の懲役または3百万円以下の
罰金あるいは併科
  • 防火対象物の使用禁止等の命令違反
2年以下の懲役または2百万円以下の
罰金あるいは併科
  • 防火対象物の改修命令違反
1年以下の懲役または1百万円以下の
罰金あるいは併科
  • 防火対象物における火災予防措置等の命令違反
  •  防火管理者が防火計画に従って行われていないときに、権原を有する者に必要な措置を講ずべきことの命令違反
  • 消防用設備等が技術的基準に従って設置され維持されていないときに、権原を有する者に必要な措置を講ずべきことの命令違反
6か月以下の懲役または50万円以下の罰金あるいは併科
  • 防火管理者を定めるべきことの命令違反

5.最後に

消防に関する責任は市町村(特別区[東京23区]は連合責任)にあり、地方自治体の条例に従い管理されています。消防設備に関する技術上の基準につきましても、その地方の気候または風土の特殊性により、条例で異なる基準を設けることが許されていますので、防災設備につきましては火災予防条例と同施行規則に従って進める必要があります。

また、防火対象物の対象とはならない小規模の店舗につきましても、我々の生命、身体および財産を火災から守ることは社会の一員としての責務であります。
防災設備の設置につきましては所轄の消防署や設備業者等の専門家のアドバイスを受けるとと共に、営業許可申請の前から準備を進められることをお勧めいたします。