いま建設業の現場は、担い手の減少、高齢化、長時間労働、処遇の改善、生産性の改善、後継者不足等いろいろな問題を抱えています。今年6月に公布された改正建設業法は、「建設業の働き方改革」、「建設現場の生産性の向上」、「持続可能な事業環境の確保」を目標に進められてきたもので、施行時期は令和2年内、一部は令和3年となる予定です。今後、政令や施行規則、ガイドライン等により詳細が固まってきますが、条文及び国土交通省資料をベースに10のポイントをご説明します。
1.経営管理責任者の適合基準(認可基準)が拡大されます。
従来の基準(*)に加え、常勤の役員として、
建設業の管理職の経験を5年以上あるいは建設業以外の業種の経営に関する経験を5年以上で、
その補助者として建設業の経営業務を補佐してきた経験者等を相応の地位に配置した場合
にも認められる予定です。併せて適切な社会保険への加入要件が加わります。
これにより、経営層の高齢化が進む中、若手の後継者の育成や、他業種からの参入もしやすくなります。
(*)従来の基準 |
2.事業承継時に事前認可を受けることで、建設業の許可を承継できるようになります。(個人事業主は相続発生後30日以内の認可申請が必要となります。)
現行では、建設業者が事業の譲渡・合併・分割を行った場合には、譲受・合併後・分割後の会社は建設業許可を取り直す必要があり、空白期間が生じていました。
改正後は事前認可を受けることで、建設業の許可を承継できるようになります。個人事業主の相続による事業承継もできるようになり、認可申請に対する処分があるまでは、相続人は建設業の許可を受けた者として扱われます。
3.監理技術者は2現場を兼務できるようになります。(専任ルールの緩和)
請負代金の額が3,500万円(建築一式工事では7,000万円)以上の公共性のある施設、重要な建設工事等では、建設工事施行の技術上の監督管理のための監理技術者を工事現場に専任で配置する必要がありました。
改正では、補佐を専任として置くことで、当面2現場のみですが、兼務して監理することができるようになります。これにより、監理技術者不足をカバーするとともに、次に監理技術者を担う若い技術者を育てる仕組みができることになります。
4.監理技術者を補佐する「技士補」という新しい資格ができるようになります。(技士補制度)
資格の名称と補佐する者の要件は今後政令で定められますが、技術検定制度の見直し(1級技士補、2級技士補、第一次検定、第二次検定等)が検討され、監理技術者の補佐ができるのは、1級技士補であって主任技術者の資格を持つ者、などが検討されています。
5.特定の専門工事については、主任技術者は一次下請(元請)のみが工事現場に配置すれば良いことになります。
技術上の施工管理を行う主任技術者は、現行では一次下請(元請)のみならず、二次下請、三次下請と、それぞれが工事現場に専任で配置する必要がありました。
改正では、施工技術が画一的且つ管理の効率化を図る必要がある鉄筋工事と型枠工事について、元請と下請けの合意及び注文者の承諾のもと、一定の請負金額未満の工事に限って適用することが検討されています。但し、主任技術者を置かない二次下請は、再下請は禁止とされます。
これにより、下請負人は受注の機会を確保しやすくなり、元請負人も自社施工分を超える業務量に対応しやすくなります。
6.現場に掲げる建設業許可証の提示義務が元請のみとなります。
下請次数の大きい現場や狭小な現場ではスペースの確保に困難な場合もあり、下請業者の提示義務をなくすものです。一方、下請にどのような会社が入っているかを明らかにするために、許可証と施工体系図の記載事項の見直しが検討されています。
7.元請負人の違反行為を下請負人が通報したことによる不利益な取扱いが禁止されます。
建設業法には元請負人の禁止事項や義務が定められていますが、これに関して、下請負人が許可行政庁や公正取引委員会等に通報を行ったことを理由に、元請負人が当該下請負人に対して取引停止などの不利益な取扱いをしてはならないと明示されます。
8.建設業工事に従事する者及び国土交通大臣に対して、施工技術の確保に関する責務が課されます。
国土交通大臣には、知識及び技術又は技能の向上のための講習・研修・研修プログラム等の実施や調査、資料提供を、建設業工事に従事する者には、これらへの参加や資格取得の努力義務が課されます。
9.建設業者団体は、災害時の復旧工事が迅速・円滑に図られるよう、地方公共団体ほか関係機関との連絡調整が努力義務となります。
災害復旧工事の迅速かつ円滑な実施のため、災害等の緊急時には、手続きの透明性及び公共性の確保に留意しつつ、緊急性が高い場合は随意契約や災害復旧に関する指名競争入札など適切な契約を実施する必要があります。また災害時における資材及び建設機械の調達や災害協定に関しても建設業者団体の調整機能が期待されます。
10.建設資材製造業者に対する国土交通大臣・都道府県知事の監督強化がなされます。
建設工事業者が使用した資材に不備がある場合に、製造業者へ適切な対応を求められるよう、建設業許可権限を持つ国土交通大臣・都道府県知事が報告要請・立入検査・勧告・命令等を行えるようになります。
まとめ
限られた人材の効率的な活用や元請・下請の役割分担による生産性の向上、人材育成や事業承継の利便性による持続性の確保に向けて、建設業界全体で対応していこうという決意が感じられます。
法施行までの間にまだ時間がありますので、自社の将来を担う経営者、技術者の育成が進んでいるか、自社の技術力は向上しているか、等をチェックしてみることも有効であると思います。